国語教育におけるインターネットの利用
一、はじめに
インターネットがこれだけ各分野で話題になっている。国語教育の分野でもインターネットは利用されることになるであろう。インターネットの学校における整備については、政府の計画もよりはっきりしてきた。ただ、現在、生徒にコンピューターでインターネットを利用させる環境が整備されているのは限られた学校だけであろう。したがって、現状では使うといったところで、利用するのは教員が授業の準備や教材研究のために利用するといったことに限られてくるのではないだろうか。もちろん、先進校では授業にコンピューターを利用して、インターネットから情報を取り入れ、また、発信するということもおこなわれており、ネット上では生徒の作ったホームページや授業報告が散見できる。
一九九五年に『パソコン国語国文学』という本が出版された。出版したのは西日本国語国文学データーベース研究会という研究会で、この本以来、年二回の総会に参加させてもらっている。この総会で初めてインターネットのホームページがどんなものであるか見せてもらった。その時は講師の大阪明浄女子短期大学の伊藤欽哉先生がアクセススピードの遅いのを我慢しながらコンピューターを操るのを見ていただけであった。当時は、三重県ではアクセスポイントが限られており、伊勢市在住の私にとって、常に市外通話をかけ続けなければならない環境では電話代が気になってインターネットを始めるには勇気がいった。現在では、伊勢市にアクセスポイントを持つ県内のプロバイダーもいくつか出来、NTTのおこなっているインターネットサービスOCNも県下に張り巡らされ、環境もずいぶん変わってきた。そこで、昨年の十月からインターネットを始めることにした。以下、その使用状況である。
タイミング良く、大修館書店から出版されている『国語教室』の六十一号に「国語科とマルチメディア」という特集が組まれた。この特集と西日本国語国文学データーベース研究会で手に入れた資料をもとにインターネットで国語教育関係の資料をどうやって入手できるか、インターネットのサービスに合わせて実際におこなってみた。すでにインターネットを使いこなしていらっしゃる国語科の先生もおられるとは思いながらも、少しでも多くの先生にこの新しい世界を知ってもらおうと文章化してみた。二、ワールドワイドウエッブ(WWW)
いくつかあるインターネットのサービスのうち、最も有名で利用者の多いのがワールドワイドウエッブ(WWW)ではないだろうか。具体的には、ネットスケープ・ナビゲーターやインターネット・エクスプローラー(マイクロソフトの独占販売にあたるのではないかと裁判で有名になったソフト)というブラウザーソフトを使ってホームページを閲覧するということになる。手に入る情報が、どちらかというと浅いのが残念だが、その範囲は多岐にわたり、一番利用しやすいという利点がある。ネット上のホームページを検索をするYahoo@やinfoseekAというサーチエンジンで調べたい事柄を入力して検索をかけると多いときで数千件、少ないときでも数件のホームページが検索される。表示されたページをクリックすればすぐにそのページを閲覧することができる。その手軽さから利用者も多く、現在インターネットといえば、このワールドワイドウエッブ(WWW)を指すのではないだろうか。 『国語教室』には、授業の実践報告は多くないと書かれていた。サーチエンジンで実際に検索をしてみる。その中で、京都の立命館高校の『国語表現』の授業記録や、十日町高等学校2年7組の生徒に漢詩の授業で訳をさせた作品が掲載されていた。思ったよりも多くの実践が掲載されているようだ。
現在ネット上では、多岐にわたる内容のホームページが多数公開されている。古文・漢文に関してもサーチエンジンで実際に検索をしてみると、思った以上に公開されている。作品本文は至る所で公開されている。例えば、古典作品では源氏物語や八代集(部分)はサーチエンジンで探せばいろいろな種類のものがある。前記した伊藤先生は、源氏物語に関するホームページ〈源氏物語電子資料館〉を公開中Bで、本文だけでない資料館を模索中だとのことである。漢文でも、白居易でinfoseekというサーチエンジンで検索をしたら、二百件近いホームページが検索された。これに、長恨歌と限定を加えたら数件に減少したが、誰かがホームページで公開をしている現状がわかってもらえると思う。この中には、先ほどの十日町高等学校の作品Cや、西安へ旅行をした方が観光地となっている華清宮で玄宗が入ったとされる浴槽やその周辺の写真を公開しているものDもあった。
もちろん各学校のホームページは数限りなく、三重県内でも高校に限っても二十数校のホームページEは確認できる。三、夏目漱石「こころ」に関するネット上での検索
例えば、「こころ」を授業で教える時、インターネットで前もってどんな教材研究ができるかホームページを使っておこなってみた。先に挙げたサーチエンジンで検索をまずしてみる。サーチエンジンには、ロボット型(検索したい語句を入力して検索をかけるタイプ)と、ディレクトリー型(画面に自分が検索したいジャンルが載っていてそこをクリックしていく)がある。まず、ロボット型とディレクトリー型とをうまくミックス下と言われているinfoseekで検索をかけてみた。「夏目漱石」と語句を入力して検索をかけたら(これからの作業は一九九八年二月二五日現在でのことである。数日後ホームページが更新されているということはあるかも知れない)一七四一件のホームページが検索された。中にはほとんど夏目漱石とは関係なさそうなものもあり、「夏目漱石」に「こころ」という語句を検索条件に加えて検索し直したら二一三件が検索された。すべてを閲覧するには時間がかかりすぎるので、少しだけ表示された(実際にinfoseekを使われた方ならわかると思うが、最初の部分がほんの少しだけ表示される)部分を見ながら全く関係なさそうなページをとばして見ていった。教材研究として役立ちそうなページとして、片桐史裕さん(新潟県立堀之内高等学校国語教諭)の「こころ」に関する一考察というページが上げられる。「こころ」の形象読みを試みてあるF。
また、愛知県立春日井西高等学校のホームページには国語の授業実践の報告があったG。内容は、「こころ」を読んで、「なぜKは自殺したか」について生徒に書かせた作品が二百数十件掲載されているものである。コンピューターに読み込んで表示させるのにずいぶんと時間のかかる力作だった。
また、授業関係以外では、岩波書店の「こころ」朗読テープの紹介(購入もできる)や、新潮社の「明治の文豪CD―ROM」の宣伝もあった。
記念館博物館関係では、ロンドン漱石記念館のホームページが掲載されているH。そのページには、「漱石情報データベース」や雑誌『漱石研究』の案内もあった。
ディレクトリー型の代表であるyahooからは、「文学」・「作者別」・「夏目漱石」とたどって3件が表示された。一つは漱石記念 館、もう一つは先にも挙げた片桐史裕さん(新潟県立堀之内高等学校国語教諭)の「こころ」に関する一考察というページ。infoseekで検索されなかった(見落とした?)重要だと思われるのは木村功さんの「SAIBA SOSEKI」というページIである。このページには、漱石の「こころ」本文、論文リスト、プロフィール等漱石に関する事がずいぶん整理されて掲載されている。近代日本文学メーリングリスト(後述)を運営されていたりで、漱石・近代日本文学に関する興味関心の高さを伺わせてくれる。おもしろかったのは、掲示板が設置されていてだれでも漱石や近代日本文学について質問や意見を掲示板に載せることができることである。高校生の書き込みがあり、漱石について先生から論文を書くよう指示されているがどうしたらいいかということであった。木村さんは、このページから論文を検索してその論文を使うこともできるが、先生方(高校の)は、そういった論文には目を通されている(傍点西根)から、すぐにばれてしまうので、こつこつと努力しなさいと返事を出していた。実際のアメリカの大学では、学生がインターネット上で論文を検索して探し出し、人の論文をさも自分が書いたかのようにしてレポートに取り込み、提出するようになることを危惧する声があるようだが、なるほどそういったことも簡単にできてしまうのかと考えさせられた。 これらのホームページは、簡単にダウンロードして取り込むことができるので、ワープロソフト等で加工し、プリントして生徒に配布したりもできる。四、電子メール・メーリングリスト
WWWと並んでインターネットサービスの中心をなすのが電子メールを使ったサービスであろう。電子メールとは、コンピューターと電子ネットワークを使って作られた電子的な郵便システムでやりとりされる、電子の手紙のことで、メール・Eーメールとも略す。電子メールの利点は、電話と違って相手がその場にいなかったり、寝ていても連絡が取れたり、受け取る側が仕事や勉強を中断されることがないことである。また、複数の人に同時に、また簡単に同じメールを出せたり、記録が保存されるので後からでも、利用ができるなど利点は様々である。 この、メールサービスを応用したのがメーリングリストと呼ばれるサービスである。電子メールを、同じ興味を持つ会員間で会議をするようにして用いようというものである。『国語教室』で福岡県立西福岡高校の穴美嘉秀先生が開設している「新国語科教育メーリングリスト」の紹介がしてあった。早速、サーチエンジンでメーリングリストのページ検索をおこない、穴美先生のホームページを探し当てた。そのページにはメールの注意点(ネチケット)や、参加者のホームページへのリンクがはってあった。その中には三重県内の小学校の先生のホームページの紹介が二件あった。 私も、勇気を振り絞って穴見先生にメールを出し参加させてもらおうとしたが、サーバー(いろいろなサービスを利用者に提供するコンピューター)の関係で百名限定だということで参加させてもらえなかった。数日後にもう一度メールが送られてきて参加させてもらえるようになった。一日に参加者から多いときで二十数通、少ないときでも十通前後のメールが送られてくる。毎日、それに目を通すだけでも大変である。意欲ある前向きな方々から送られてくるメールは励ましにもなり、がんばろうという気にさせてくれる。内容は、国語教育に関すること以外にもコンピューター利用に関すること(さすがに国語教育に関わりを持つ方々だけあって日本語変換の事など)などもあり、役立つことも多い。 たとえば、二月に没した小説家の一覧を配信して、それに関して意見交換したり、教科書に掲載されていた「詩」の元の詩集は何かといった問い合わせ、常用漢字以外の漢字の書き順について探し方から始まってそもそも漢字の書き順はなぜあるのかといった内容の議論まで国語に関する話題が満載である。私も二度ほど書き込みをさせてもらった。一度はすぐに反応があったが、二度目はみなさんの話題からそれたらしく、反応は全くなかった。まだ始めたばかりなので、話題の見つけ方や反応の仕方等わからないことが多くとまどっている。
メーリングリスト以外にも、電子メールの無料配信サービスを行っている所もある。日本経済新聞社が出版しているコンピューター関係の雑誌が、コンピューターに関する電子メールをほぼ毎日配信してくれたり、PHPが書籍に関することをまとめて電子メールで無料配信してくれたりしている。日本経済新聞社のメール配信サービスは、コンピューターに関する話題に限らずスポーツから釣りまで多岐にわたるのでなかなか興味の持てるものも多く重宝している。五、ネットニュース
メーリングリストがある特定の会員によるものだとすると、ネットニュースは誰もが参加できる開かれたものだといえる。パソコン通信のフォーラムに相当するものだといってよさそうだ。それぞれのサーバーに世界中から書き込まれた情報を集めるソフトがあって、あつめた情報をニュースの内容によって分類している。中には、からかい半分や、悪意に満ちたものがあったりして、まじめな情報には、メーリングリストのほうが向いているという指摘もある。私自身はあまり利用したことがない。六、これから
以上、インターネットの三大サービスを中心にして、利用した印象を書いてみた。まだ、利用して数ヶ月しか経っていないのでこんな便利なことができるというレベルまで到達していないが、これからの情報発信は、インターネットを無視してはおこなえないという印象は受けた。企業はインターネットに最新の情報を流し、大学の研究者はインターネットを通じて、研究成果を発表するという状況である。高校現場においても、進学情報はこれからはインターネットを通じて取り込まれるようになるであろうし(コンピューターを利用できない教員に対する書籍によるサービスはいつまで続くか?)、授業に関するメーリングリストや情報はインターネットを通じて取り込まれるようになるであろう。ちなみに私が加入しているインターネット接続サービスをしている会社は月二千円(十時間以内)。十時間を超えると三分十円の課金。それに電話代である。市内通話なので、概算で十時間二千円というこになる。@http://www.yahoo.co.jp
Ahttp://www.infoseek.co.jp
Bhttp://www.mahoroba.ne.jp/~genjiito/
Cこのページは後述のFの作成者片桐史裕さんが、十日町高等学校 におられた時の実践報告のようだ。 http://www.ginginnet.or.jp/~naiagara/
Dhttp://
E名張西高校のホームページに、県内の高校のホームページへリン クできるページが公開されている。 http://www.e-net.
Fhttp://www.ginginnet.or.jp/~naiagara/kokoro/kokoro.htm
Ghttp://www.japan-net.or.jp/~iknishi/study/japanese/kokoro.htm
Hhttp://www.dircon.co.uk/soseki-museum/info.html
Ihttp://www.ube-u.ac.jp/
〈参考文献〉
中村正三郎編著『インターネットを使いこなそう』 (岩波ジュニア新書)
岩谷宏箸『基礎からわかるインターネット』(ちくま新書)
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