銭湯の良さを次世代に 町の公衆浴場「銭湯」を知らない子供が増えているが、「多くの人と触れ合い、“考える力”をはぐくみたい」と、伊勢市の銭湯経営者が無料開放。入浴体験を通じて歴史やマナーなども指導、地元はじめ県外の小学生も訪れている。
伊勢市の「旭湯」が無料開放
触れ合いや思いやり育んで
同市神久、汐湯・おかげ風呂館「旭湯」館主・酒徳覚三さん(64)は、昭和初期から続く三代目。小さい時から番台に座り「元気か?」「いつも偉いなぁ」と、常連客から声をかけられ、世代を超えた温かい心を感じて育った。
家庭風呂化が進み、五十数軒あった市内の銭湯は十数軒に減少。道徳を学ぶ“教えの場”として復活させるため三年前、学区内の有緝小学校・小松ゆき子元校長らの賛同で、地域や生活を教材にする総合学習に「銭湯入浴体験」を取り入れた。
夏には三年生と五年生約三十人ずつが参加。ロビー横のホールで酒徳さんが集めた資料を元に、風呂と地元の歴史について受講。▼銭湯の元祖は、伊勢市出身の伊勢与一が江戸で開いた蒸し風呂だったこと▼おかげ参りの参拝客には、地元の人が無料で風呂を提供し喜ばれた―などを学んだ。
脱衣所では、体がぬれたままで動き回ると他の人に迷惑になるなど、自分本位の行動の悪さも体験した。
中には、裸でジュースを飲んでいる大人に「ちゃんと服着てからじゃないとだらしない」と、注意する子どもも。
講義後はみんなで入浴。一般のお客と“裸の付き合い”。「体洗ったろか」などと声を掛けられ、和やかに交流していた。
酒徳さんも一緒に入浴、その場で気配りの大切さを指導。女風呂には妻・かずゑさん(60)が入り、子ども時代の話などをして、心を通わせている。
昨年十月、インターネットを見て大阪府堺市立上野芝小学校(中島孝子校長)の六年生が体験に訪れた。
参加した岡本祐樹、若山尚樹両君は「多くの人に親切にしてもらい、うれしかった。教わったことを家族や学校のみんなに伝えたい」と話していたという。
(江川 智恵)
H18.3.8 第274号
[バックナンバー]