鳥羽水族館 ジュゴンのセレナ来館し20年 雌のジュゴン・セレナが、鳥羽水族館(鳥羽市鳥羽)に来館して二十年を迎えた。もう一頭のじゅんいち(雄)は二十八年と、世界最長の“飼育記録”を樹立。このかげには、飼育研究と調査に努力してきたスタッフと関係者の愛情が秘められている。
世界で唯一のペア飼育
三十年前からジュゴンの飼育に携わってきたのは浅野四郎取締役副館長(57)。
初めて飼育したジュゴンの死を機に、「環境と生態をもっと調べよう」と、片岡照男顧問(77)と共に多く生息するフィリピンへ。海草の調査、生息域や頭数把握のため航空機を使った目視調査など、フィリピン政府と共同で研究を続けた。
昭和六十一年、台風で迷子になっている一頭のジュゴンを発見した。体長一・四b、体重四十五`の幼い雌。風雨が強まる中、飼育研究部・若井嘉人次長(47)も加わり、静かな入り江に作った畜養施設に収容、人工哺育に挑んだ。
口の構造を考え、ゴム手袋や潜水用のウエットスーツなど、島の雑貨屋で材料を調達して授乳器具を製作。周囲を泳ぎ、徐々に慣れさせてから授乳することに成功した。
一頭だけだと泳がず、運動不足で衰退してしまうため一日数時間、一緒に泳いだ。八日後には後についてきて、そばを離れるとヒヨコのような声で鳴いて探すほどに。
一日の食料は、二千八百ccのミルクとココナツジュース、四千二百cの海草。元気に成長していった。
半年後、タガログ語で人魚を意味する・セレナと名付けられ、日比友好の証としてフィリピン政府から日本へ贈られた。
入館後も、状態の変化を推定して把握。幼いときは、消化器官がしっかりしていないためミルクの濃度を変えたり、薬を団子状にして飲ますなど、飼育にさまざまな工夫を。動物の子どもに関する本を読み、一日中マッサージして共に過ごしたこともあった。
下痢や食欲不振、動かなくなるなど、何度か危機もあったが、原因を考えた早い対応で改善。「前例がなく試行錯誤だが、ミルクの飲み方や動きに、徐々に変化が見られるとうれしい」と浅野副館長は話す。
こうした熱心な飼育で体長二・六b、体重三百五十`まで成長したセレナ。来館二十八年の世界記録を持つ雄・じゅんいちとの“ペア飼育”。二頭のジュゴンを見に全国からファンが訪れている。「容姿に癒やされる」と、大阪府堺市から三日間連続で会いに来る親子もいた。
来年の二月までは、セレナの来館二十年を記念したパネル展「セレナと行くおもしろサンゴツアー」を開催。さんご礁の海を再現し、サンゴの生態を紹介している。
(江川 智恵)
H19.5.23 第294号
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