「やぁあああ!!」

月の光に照らされながら、響は漆黒のダンスを舞う。
伊達にグラディエーターを名乗っているわけではなく、その太刀筋は正確無比だ。

「敵攻撃能力、斬撃のみと判断。 対剣戦闘開始」

彼女も冷静に判断し、響の剣を切り返す。
これまたドレス姿に似合わない、可憐で鋭い動きだ。

「もらったです!」

響がそう叫ぶと、彼女の持っていた剣が宙を舞う。
だが彼女は腰につけていた、さらに太く大きな太刀を抜く。

「霧生響ベルナルド……第67代にして最年少の剣闘王」

「私の事を知っているですか!?」

響の質問にも答えず、彼女は響に向かって切りかかる。
鉄と鉄が奏でる乾いた音が、深夜の公園にこだましていく。

「“あのメンバー”の中で最も戦闘力の高いのが貴方。 だから最初に捕獲する」

日本に来て間もない響に対し、彼女は何もかも知っているような素振りで話しかける。

「ならばなおの事、皆さんを危険な目に合わせる訳にいきません!」

冷たい鉄の音に重ねるように、彼女の左手から雷音が響き渡る。
素人目に見ても電気が流れたような感じだった。
彼女が響の腕を左手で掴んだ瞬間。 そもそも彼女の左手がおかしい。

「こ、コネクター!?」

しまった、そう思った時にはすでに遅かった。
彼女は俺の存在に気づいてしまったようだ。
彼女と目が合う。

「や、やぁ…」

俺は出来る限りの笑顔で彼女に接した。

「もう終わりますので、しばらくそのままでお待ち下さい。 目標を鎮圧後、貴方もご同行をお願いいたします」

彼女は淡々と言い放った。
どうやら俺の事はもっと前に気づいていたようだ。

「俺には何時気がついたの?」

「貴方たちの言う所の、ロボットにあたりますので、センサー類で最初から気づいております」

聞きなれない、いや、見慣れない単語が出てきた。
彼女の言う事が正しければ、俺の目の前にはロボットがいる事になる。
そしてそのロボットと響が戦っている。

「戦闘中に!」

呆然としていた時、不意に響が叫んだ。
と同時に彼女の腕を払い、体勢を取り直す。

「余所見をするなんて!」

響の水平切りが彼女を襲う。

「「甘いです」」

響が言い終わる前に、彼女は同じ事を言いながら、響の払いを剣で防ぐ。
それも最小限の動作で。

「……ふむ、鎮圧用の雷撃を受けてまだ立っていられるとは」

「少しビリビリしました、でもあの程度で倒れるほど柔でありません!」

さすが響だ。
どの程度の電圧だったのかはわからないが、電気を流されても何事もないようだ。
今度スタンガンを使って押し倒そうと思ったが、止めておこう。

「大口叩いた手前、引き上げるわけにもいきませんし、姿を見られた以上は捕獲しないと」

口上もほどほどに、彼女は再度、剣を向ける。
響も負けずに構えを改める。

「響!彼女の発言が本当なら、疲労の蓄積される響の方が圧倒的に不利だ!一気に決めて……」

「セコンドのつもりですか?」

うそん、これは予想外だ。
響と向き合っていた彼女は、一瞬にして俺の方向へ軌道修正をしてきた。

「瀬戸瀬さん!!」

響も驚いてこちらに駆けてくる。
だが、先に彼女が俺の元へと辿り着くだろう。
と言うか着いた。
俺は首筋に刃を当てられ、身動きが出来ない状態だった。

「卑怯者!正々堂々と戦った方がいいですよ!」

響は日本語をイマイチ理解していないのだろうか?
もしくは押しの弱い性格なのだろうか。

「試合ならば構いませんが、戦闘でそのような事を仰られても説得力がありませんよ。 さぁ、剣を捨ててもらえますか?」

歯が砕けるのではと思うほど、響は歯を食いしばっている。
そうして響は、ジッと彼女を睨みながら剣を下げる。

「私は捨てろ、と言ったのですよ」

「あだだだだ」

彼女の腕が強く絞まる。
それは俺の首が締められ、意識が遠のいていくと言う事だ。
このままでは落ちる…

「わかりました、剣を捨てるので瀬戸瀬さんを解放してください」

「響…」

我ながら何と情けない。
女同士の戦闘に割り込めない上に、足を引っ張る事はしっかりしている。
このままではあまりに酷いので、俺はポケットから最終兵器を取り出した。

「魔道第六法則に従い、我、中時の詠唱を略す。 右手に掴むは輝く栄光、左手に掴むは我身の自由、目前の勝利を我に!掌握の閃光ッ!!」

「瀬戸瀬さん?」

「あなた……大丈夫ですか?」

二人とも奇妙な物を見るような顔をしている。
そんな余裕もここまでだ、俺の掌握の閃光の力を見せてやる。

「……掌握の、閃光でしたでしょうか? 何か効果がありますか?」

「ちょっと待っててくれ」

俺はそう言って、彼女を少し待たせた。
確かジャケットの内側に入っているはず……

「あった。 すたんがーん! えいっ!」

バチッと鋭い音と共に、青白い光が彼女を駆け巡る。
内蔵しているものを使う事はあっても、使われる事はあるまい。
まして彼女が本当にロボットなら、効果は抜群だ。

「あ、ああ!!」

それほど長時間放電させたわけではないが、かなりの効果があったのだろう。
彼女は妙な呻き声をあげながら、その場に座り込んだ。

「ああ、ううっ……システム障害……復旧不能……CP……Uダメー…ジ……機能停」

何と言いたかったのだろうか、彼女は全てを言い終わる前に倒れこんでしまった。
やはり機械だ、かなりのダメージがあったのだろう。
でも普通はサージ機能とか積んでいないのか?

「だ、大丈夫です!?」

「ん、ああ、俺はね」

響が心配そうに駆けつけてくれた。
それは俺の台詞だ。
俺が足を引っ張ってしまったために、彼女には無理をさせてしまった。

「俺の方こそ、迷惑をかけてすまなかったな」

「そんなことありません! 瀬戸瀬さんこそ……」

このままいい雰囲気で帰りたいところだが、これを放置するわけにもいくまい。

「どうする、これ?」

「持って帰ります。 思い当たる節があるので」

持ち帰れるのかだろうか、結構な重量だと思うのだが。
そう考えているうちに、響は携帯電話を取り出し、誰かに連絡を取り始めた。

「はい……はい。 ええ、メタルナイトのようです。 はい……メイドタイプですね」

メタル…なんだそりゃ?

「はい、回収をお願いします。 場所は……」

響は淡々と超次元の会話を続けていく。
俺は完全に置いてきぼりだ。 まぁ最初からだが。

「ふぅ、さすがに疲れましたね」

肩こりをほぐすように首を回し続ける。
かなり苦戦を強いられた様な感じではあったが、よく考えれば響はグラディエーター。
このくらいの事は日常茶飯事なのかもしれない。

「なぁ響、これは一体なんだったんだ?」

「ん?ええ、これはメタルナイトと言いまして、最新型のアンドロイド……じゃなくてめたるにくすふゅーま何とかです」

響も良くわかっていないのだろうか。
少なくともふゅーまはない。

「ふーん、響のバイトってのはコレの退治か?」

俺はしゃがみ込んでコレの観察を始めた。
あ、ピンクだ。

「何やってるんですか!! ……私の仕事はどちらかと言うとクライアントをコレから守るのがメインです」

「ふーん、ボディーガードか。でもそのボディーガードが単体で狙われていたら意味ないんじゃね?」

「あう…」

きっと複雑な事情があるのだろう、俺はこれ以上の追及を止めて、探求を始めた。
うむ……かなりデカイな。

「ちょっと、セレナさん!何やってるんですか!!」

「かくにーん」

俺だって男だ、こんなでかい山二つを目の前にして放置できるほど人間はできていない。
いざ、未知の巨山を制覇するべし!
俺は彼女のふくよかな胸に手を当てようと……

「ダメです!!」

彼女の叫び声と同時にガンッと大きな音が鳴り響いて、俺の記憶は途切れてしまった。
もしかしてあの大剣で殴られた!?ねぇ殴られた?



第二話 登場、めたるふーま何とか