「あー、良い天気ねぇ〜」

ん〜っと伸びをする舞、その後ろには相変わらずの視線。

「良い天気でも悪い天気でも、仕事をしていただきたいものですねぇ」

物資を運んでいるきなこの服装は、長袖の補給隊局地業務仕様。

「ダメだぞー、こんな良い天気の日に仕事なんてやってちゃ〜お天道様に怒られるぞー」

そう言って舞はきなこを見る事もなく、南国の典型的な“とろぴかるじゅーす”を飲み、再度横になる。

「そんな事を言ったって…」

辺りを見渡すきなこの周りには、まさに南国とも言える椰子の木々。

「ここじゃ毎日快晴でしょうがぁぁぁあ!!」


ここは第五補給隊、沖縄駐屯地 第三話 熱砂の攻防戦


「そんな事ないわよ、昨日は大々的にスコールだったし」

「スコールだから屋外で仕事ができないとか言って逃げたじゃない!」


前回の名古屋戦の結果、対韓儀仗団の勢力は衰え、中部圏に再び平和が戻った。

平和になった以上、軍人は暇になるわけで、別件の任務等が割り当てられる。それは御刀達も例外ではなかった。

ディアボロスの足止めは名古屋勢を立て直し、三重県が緊急配備を行うに十二分の時間を与えてくれた。

その御刀達の評価は高く、国家防盾章を貰うほどではあったが、いかんせん補給部隊。戦闘配備がなければ復旧作業で出張など日常茶飯事。


「舞、気持ちはわからんでもないがそろそろ制服くらい着用してはどうだ?」

同じく物資を輸送している御刀の服装も、きなこと同じものの袖をまくっただけであった。

「えー 着替える時間が勿体無いしー、業務時間が終わったら即入水したいじゃない」

そう、ここに配属されて3日の間、彼女はずっと水着で勤務している。これを勤務と呼んでいいのかどうかの疑問は残るが。

「大尉、私は彼女が除隊扱いにならないのか不思議なのですが…」

「それは俺が水着が好きなのと、きなこが二人分働いてくれるからだな」

真顔で言う御刀に、落胆するきなこ。その奥ではけせらせらと舞が笑っている。

(何だかなぁ〜)

「そうだ!きなこ。夜に服を買いに行くのだが、来るか?」

「「ええっ!?」」

「どうも新作が入荷したらしくてな、きなこもたまには休みを取った方がいいだろう。どうする?予定があるのなら俺一人で…」

「「行く」きます!」

二人がステレオで叫ぶ。と同時にきなこは明らかに嫌そうな顔をしていた。

「舞」

「なになに?」

「勤務記録表と前回の対装甲戦闘報告書、今日の24時が提出期限だからな。怒られるの俺だから忘れずに提出ヨロシク」

御刀は今までにない、満面の笑みを浮かべた。

「えええええ〜」

悲痛な表情の舞、その後ろでは…

(よしッ!)

小さくガッツポーズを取るきなこの姿があった。

「そもそも3日間は素敵な勤務だったんだ、少しは苦労もするように」

「う〜何もギリギリに言わなくてもー」



夜八時

「それじゃ、行ってくるわ」

「いってきまーす」

「いってらっしゃ〜ぃ」


頭を抱えて悩む舞。それもそのはず勤務記録表の改竄はもちろんの事、戦闘報告は目標に対する戦術対効果の詳細を記載せねばならず、
この作業ばかりは火力担当の舞にしかできない。しかもその報告内容は通常、辞書一冊分に及ぶ場合もある。
ましてや真空防壁など舞の知るよしもなく、情報は御刀の置いていった真空兵装理論の本一冊だけであった。

「わからないよぉ…」


夜、二人が帰ってくると舞は机で寝ていた。

「あらら、言ってた通りですね」

「そうだな…きなこ、もう時間も時間だし、部屋に戻って休め。俺は書類の確認をしたら寝るから」

そう言うと御刀は舞の作成した書類に目を通す。

「はい、わかりました。大尉もご無理をなさらずに」

「ああ」


数分の時が流れる…


(案の定、ほとんど書けてねぇ…)

御刀は後半の白紙部分を見て、肩を落とす。

(濡れた跡、泣くほどか?…確かに作業量は多かったかな、しょうがない手伝ってやるか)

「げっかぁ…わかんなぃょぉ…」

「舞?」(…寝言か)

俺はその晩、書きかけの書類を完成させ、舞を部屋へと放り込んでから寝床についた。


翌朝…


「おはよーっす」

「ああ、おはよう」

御刀が歯を磨いていると、やたらテンションの高い挨拶が響き渡る。

「ねぇねぇ、月下」

「どうした?」

相槌もほどほどに、テキパキと身だしなみを整える御刀。

「昨日はありがとね♪」

「…まぁな。起きていたのか?」

さほど驚いた様子もなく、御刀が問いかける。

「もちろん!と言いたいところだけど、実際は起きたら書類が出来ていたから」

「言ったろ?今回の提出が間に合わないと、俺が怒られるってな」

遠くからパタパタと足音が響く。


「大尉ー!朝ごはんの準備できましたよぉー」


「さて、今日からちゃんと業務に参加するんだぞ」

「はーい」

沖縄とは言え、朝は若干涼しい。
もうしばらくすれば熱い太陽が顔を出し、いつもの熱砂に戻るだろう。
眼前はとても広く、そして青く輝く水平線。
これまでの激務や激戦を忘れさせてくれる、そんな力を持っている気がした。
同時に、これらかの事も色々と考えてしまう。俺達は何時まで戦うのか、何時まで一緒にいられるのか。
そう考えていると、舞のやってる事もあながち間違いじゃないのかもな。

「舞、きなこ。命令だ」

「なんでしょう?」
「うぃ?」

「すぐに10分以内に水着に着替えて来い。着替えたら表の海岸線にスイカと浮き輪を持って集合だ!」

「やっほー!」

「えええっ?」

「きなこ、今日は業務中止だ!泳ぐぞ!!」

「で、ですが…」

「ほらほら、アンタは堅すぎるのよ。たまには一緒に羽目を外しましょッ」

「…うん!」




きっと明日からはまた激務に戻ると思う。
だが、こんな日が一日くらいは必要だろう。
これからもみんなと一緒にいるために。