平井多久麻氏(57)
美術造形作家
松阪市曽原町
モザイク装飾で障害者を応援
ガラスや木材などの小片を組み合わせて作る「モザイク」装飾。これを生かした作品制作を、知的障害者の社会参加の手段にしたいー。コンピューターが補助する作業台システムを構築、企業との連携やボランティアを募りながら作業所の設立を目ざしている。手にしたカタツムリはシンボルマーク。施されたタイルの一つ一つに、夢や願いが込められている。
旧一志郡三雲町の出身。京都の大学に進学して油絵を学ぶ傍ら、当時注目を集めた作家らがアトリエを構えていた「北白川美術村」に通って手伝いを。「学校で下手な哲学の授業を聞くより面白かった」と、大きな影響を受けたという。
現像所や美術鋳造会社での勤務、子ども向け教室の主宰などを経験。京都と故郷を行き来しながら、長岡京・出土品の復元作業(昭和六十年)や金閣寺の「昭和の大修理」にも参加した。
モザイクの利用を思いついたのは、京都医療福祉専門学校で副校長をしていた九年前。知的障害者はどうすれば社会との接点を持ち、健常者にそん色ない評価をしてもらえるのか考えたのがきっかけだった。
モザイクは▼修正できる▼感性が生かせる▼作業の正確さはわずかな訓練で身に付く▼出来栄えで勝負できるなど、適した点が多い。
「使用するタイルは、大小さまざまで不定形なもの。人間社会もいろんな人の集合で形成されている。重要なのは個々の存在」と話す。
不定形タイルを好んだスペインの建築家、アントニオ・ガウディから「ガウディプロジェクト」と名づけ、実用化に動き出した。
中心部分となるのが、色材を置く作業の的確性を高めるために構築した作業台システム「ITデスク」。CCDカメラとコンピューターに補助をさせ、作業する人はキーボード操作が不要という。
図案がある場合は、これを使って制作し、ネットワーク化すれば、遠隔地との共同作業も可能になる。「地雷を踏んだ子どもたちなど、全世界の支援ができるのでは」と夢が膨らむ。
セラミックタイルは趣旨に賛同する製造会社、名古屋モザイク工業(岐阜県)が協力。
京都市の御池地下街には、クロード・モネの「睡蓮」をテーマにした壁画が飾られている。先月、津市のイオン津南ショッピングセンターで初の展示会を開催。約千人が来場した。
「まだまだ認知度は低いが、企業に特例子会社制度による障害者雇用として提案できたら。行政と違う立場で、福祉をコーディネートしていきたい」と話し、ボランティアを募集している。
自宅で造形教室「アトリエ・タクマ」を主宰。妻(37)と二人暮らし。
(福家 明子)
H19.5.23 第294号
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