「で」

俺は頭をさすりながら話を続ける

「ここまでの経緯をまとめるとこうなるわけだ」

1、基本的にメイドは住み込みで働く
2、給与は母親から口座に振り込まれる
3、エロい事はしない(チッ)

「そして4。そもそも雇うかどうかまだ決めてない」

えーと言う声がこだまする。特に銀髪。

「大体そんなもんは親が勝手に決めたんだろうが、俺が人生経験を重ねるに当たって人を頼っていては意味がない」

「しかし大奥様から…」

志乃美はやはり噛み付く、その必死ぶりは敬意に値するが、今ではもううっとおしくてしょうがなす。

「母が何と言おうと俺はいらんものはいらん!」




僕とメイド 〜ラスボスはお母さん〜




「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」

そうやって芹菜が手を上げる。
ヤバイ、この手のお姉さん系は理論武装が比較的高い。
ましてなのはみたいなボケ担当が決定している以上、まともなキャラである事は容易に想像できる。

「ご主人様、また私の悪口考えてない?」

無駄にするどい。それを別の事に回せ。

「お言葉ですが、私達は何度も申し上げております通り、大奥様に雇われ、屋敷の鍵も所有しております。
雇い主からの指示でご主人様に奉仕するのは当然ですし、この場合はご主人様が説得されるのは私達ではなく大奥様ではないでしょうか?」

強い…完全に論破されてしまった。
と言うか普通はそうだな、うん。俺も今気づいた。

「あはははは、ばっかー」

茶髪、ムカツク。

「よしわかった、待ってろ」

俺はそういって受話器を上げ、外線をかける。相手はもちろん今回のラスボスだ。

「はい、火乃守です」

「彩杜だ、母は?」

「は、はい!少々お待ち下さい!」


時間少々…


「えーご主人様ってお母さんの事を母って呼ぶんだ〜何か貴族みたい〜」

貴族なんだよ!(´Д`;)

「こら、なのは!少し黙ってなさい!!」


「はい、もしもし?」

「ああ、母さんか。ちょっと説明して欲しいんだけど」

「彩杜?彩杜なのね!よかった、全然連絡がないから心配したわ。あの人は修行で出た以上、連絡はしないだろうって言ってたけど、お母さんはホントに心配したのよ?引越先は思ってたより屋敷より遠いし、あの辺りは夜になると人の数もまばらになるし、治安もいいかどうかわからないわ。それに深夜にでもなればジークフリートが出現するって噂も聞いたのよ?本当に心配したわ。彩杜なら運動神経もいいし、武術の心得もあるから大丈夫だとは思ってたけど、それでも相手はどんな武装をしているかわからないわ。路地裏で突然スティンガーミサイルを撃ち込まれる可能性だってあるし、そもそも私は彩杜が武術をやりだす事自体が危ないから反対だったのよ。自己防衛ならSPを付けてあげるってお母さん、何度も言っているのに彩杜は聞いてくれないし、でも確かに武術を習っている時の彩杜は素敵だったわ。お母さんもあと数年若かったら彩杜に惚れていたかもしれないわね、キャッ。彩杜が1人暮らしをするって聞いた時は、もう血の気も引くどころかちょっと意識を失いかけたほどよ。もう貧血気味だった学生時代を思い出したわ!アイツは彩杜なら大丈夫だ、大丈夫だしか言わないし、もう心配で心配でしょうがなかったけど、火乃守の家訓ならしょうがないと泣きながら認めたのよ。もう、何でこんなしょうもない家訓を作ったのかしら、今更庶民の感覚なんて覚えても、上流階級には関係ないじゃない。社交の場に一般人が出てきたら間違いなく撃ち殺されるわよ、ううん、彩杜に危害を及ぼすものは私が撃ち殺すわ。彩杜のためならこの手がどれだけ血にまみれようと構わない!でもどうしても彩杜を成長させるためと言われてしょうがなく納得した…でも庶民の感覚を覚えるのにあえて危険を及ぼす必要はないし、彩杜1人で寂しい食事を取らせるわけにはいかないわ。何より彩杜が自ら家事をやる事と庶民の感覚は関係ないもの。だからメイドを3人送ったのよ。彼女達は貴方の手足となって働くから、馬車馬のように扱って構わないわよ。でもね、彩杜ような気高き人が、あんな下々の娘に気を許しちゃダメよ?もし彼女達に襲われそうになったら…うん、構わないわ、電話の下の引き出しにお母さんが現役だった頃に愛用していたリボルバーがあるの。エングレーブはタクティカルアドバンテージとは関係ないけど、もうアクシデントは起こらないわ。虚栄心が生んだ必然かもしれないけど貴方のリロードは革命よ」


ガチャ


俺は黙って受話器を降ろした。

「説得できましたか?」

ここに来て一番の笑顔を見せる芹菜。

「はいはい、あの人には勝てねえわ」

「じゃあ!?」

志乃美の顔がパァッと明るくなる。

「好きにしてくれ…はぁ」

「「やったぁー!!」」

二人が歓喜している。つーか何がそんなに嬉しいんだか。
他にも仕事はあるだろうに。と思っている悩んでいるご婦人が。


「で、やったぁーじゃなくて!住み込みについてなんですけどー」


すっごい嫌そうな顔の茶髪、どうやら自分が思っていた職場と想像が違ったらしい。

「な、なのは…ちゃんと契約書読んだの?住み込みで食事・炊事・洗濯等一般家事と屋敷景観の維持を行うってあるでしょ」

「バイトの面接で、そんな細部まで読まないじゃない!」

言い切った。言い切ったよこの子!

「普通メイドって言ったらそこまでする!?」

いや、普通のメイドはしますよ。してナンボの職業ですがな。


「じゃあ帰りなさいよ」


「えっ?」

その時、志乃美が真剣な顔つきでなのはを見つめる。その声にはかなりの怒気が混じっていた。

「メイドの仕事では、貴女のような人は場の調和を乱すし、かえって迷惑だわ。秋葉原でも大須でも行って貴女の言うメイドの仕事をしなさいよ」

志乃美の迫力ある声に周囲の空気が変わる。なのはも落ち込んでいるようだ…

「志乃美、確かにそうだが、少し言いすぎじゃないか?彼女だって…」

うつむき、微動だにしないなのは。少し震えている…泣いているのか?


「何よ!何よ何よ!いーわよ、やってやるわよ、家事でも洗濯でも夜伽でもやってやろうじゃないの!」


そうだな、涙と最も縁のない奴だよな……なのは、夜伽は欲しいがいらん。

「よ、よと…貴女ね、だからその考えが絶対的にメイドに向いてないのよ、そんなに夜伽たかったら、近場の風俗で働いたらどうなの!?」

「うっさいわね、この辺に風俗なんてないわよ!じゃあ私がご主人様のために風俗やってやるわよ!アンタは終日シチューでも作ってればいいじゃない!」

ちょ、二丁目の角にありましたよ、ファッションヘルス“鶴来屋”が。

「ふん、貴女みたいな軽い女、ご主人様の趣味じゃないわよ!ご主人様は美味しいシチューを作れるような女性が好みなのよ!」

何故限定する、俺は食道楽かよ。そもそも俺はシチューよりカレーの方が…


「一緒です!」


志乃美さん、テレパス!?

「あのね、貴方たち?それだと私が洗濯やら掃除やら管理を1人でする事になっちゃうんだけどー」

「何よ、じゃあ私の作った料理を食べて、腰抜かすんじゃないわよ!?この口だけメイド!」

「な、なななな!言ったわね!私が口だけかどうか見てもらおうじゃない!貴女は口だけじゃなくてもっと違うものも使ってるんでしょうけどね!」

「志乃美さん、さっきから微妙にセクハラ多くないッスか?」

「ご主人様は黙ってて!」「ご主人様うるさい!」




女たちの激しい罵り合いは果てし無く続いた…腹減った〜

「だからこのままだと私の仕事量が…」