「で?」 「はい…」 「どうしてこんな事態になってるのか、お二人とご説明していただけますか?」 ここは火乃守家別館、通称教育屋敷。 ここでは先代より始まった、火乃守家の帝王学研究のため、次期当主が庶民と肩を並べて生活する屋敷である。 そこの居間にて、この事件は起こった。 おびただしいほど真っ赤に染まったカーペット、床、壁、ドア…人。 ここで一体何が起こったのか、真紅に染まった主人とメイドに起こった悲劇とは? それを知るには、少しずつ、ゆっくりと事件について紐解いていかねばならない。 5月13日 20:00 火乃守別館、リビング 『機道武斗伝説 Gフォース!!』 「確か先週は、師匠とカシェスの直接対決のはず」 俺は冷たいオレンジジュースを飲みながら、先週の話を思い出す。 機道武斗伝説 Gフォースとは、今世間で大ブームの近未来ロボット格闘アニメ。 奪われたアルテマフォースの破壊と、消息を絶った姉を探すために、全世界規模の格闘大会に参加する主人公の熱い物語だ。 「至福の瞬間だな」 ぱたぱたぱたぱた…ガチャッ! 「間に合った〜…ってあれ?ご主人様?」 俺がマッタリとオープニングを楽しんでいると、そこには意外な客が現れた。 「ん?なのは、どうかしたのか?」 「えっ、いや…その…テレビを見ようかなーと」 基本的に各メイドの個室には一般的な電化製品は設置されている。 が、なのはの部屋のテレビは実はまだない。 家は家で使っているため、こっちに回すものがなく、現在納品待ちなのだ。 「残念、俺が今から見るので却下だ。志乃美にでも借りて来い」 当然だ、今日は「マスターヨーロッパ、満月に死す」一番燃え上がるシーンだ。見逃せない。 「!? ご主人様、これ見るんですか?」 「うむ、もちろん」 「そ、それならせっかくなのでご一緒しますね」 ウザッ!(´Д`;) 「いいって、志乃美は今仕事中だからテレビ空いてるし、見たいの見て来い」 「そんな、ご主人様を一人にするわけにはいきませんわ」 何か見たかったんじゃないのか? 「と言うかなのはっぽくない、何を企んでいるんだ?」 「ご主人様、声に出てます…」 あうちッ! 「って言われても、別にテレビ見るくらい一人で…」 「あっ、始まりましたよッ!」 「うそ、マジ?」 『ねぇ、カシェス。貴女には教えられたわ、人類もまた同じ自然、それを抹殺するのは自然を破壊するのと同じ…』 『れ、レーラァ』 『私を…またレーラァと呼んでくれるの…?』 『僕は今になって初めてレーラァの悲しみを知った。なのに僕は貴女と張り合うことばかり考えていた…なのに貴女は最後まで僕の事を…』 『何を言うの、しょせん私は大罪人よ、だけどね、みて…私の体は一変たりともデビルフォース細胞には犯されていない…』 『わ、わかっていました…わかっていたのにぃ』 『ねぇ、カシェス…貴女と中村区で出会わなければ、貴女がフォースファイターにならなければ…こんな事には…こんな事にはならなかったのに…』 (満月を見て) 『美しいわね…』 『はい、とても美しゅうございます!』 『『ならば、流派欧州不敗は 皇者の風よ 経絡秘孔 天地爆殺 見よ! 巴里は紅く萌えている!!』』 『うっ…』 ガクッ 『れ、レーラァ?れぇぇぇらぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああ!』 す、すげぇ…今まで色んなアニメや映画を見てきたが…ここまでカッコイイ女達を見た事はないぞ… 「うっ、くっ…くくく…」 !!こいつ、この名場面で笑ってやがるッ! 「おい、なのは…」 「うわぁぁぁぁぁあぁああああああん、レーラァぁぁぁああああー」 Σ(´Д`)ビクッ!! な、なぬごと!? 「あああぁーーーん、れぇらぁああああああ〜かっこよかったよぉぉおおおお〜」 …………もしかして、コイツ信者?(´Д`;) 「ごじゅじんざま〜 れぇーらぁが〜れぇーらぁーがぁ〜」 「なのは?ちょっと落ち着け」 「うわぁぁぁぁぁーん」 ガシャン! こら、物を投げるな! ブンッ! 棒(テレビの主電源をつける用)を振り回すな! ドサッ こら、抱きつくな! 「わぁぁぁぁぁん」 「い、イタッ!叩くな!って言うか落ち着けって!」 う?うぉぉぉおおおおお!? ドサッ、ドスッッ!ガシャーン! 「えぐっ、うっ、ぐすっ!」 「あーあ〜…」 散々な状況だ。 物は投げる、色々振り回す、最後は抱きついたと思ったらそのままソファをぶち倒す。その衝撃で後ろの棚が倒れる。 そして今も泣きっぱなし…はふぅん。 「な、何事ですか!?」 「あー芹菜ー 助けてくれー」 -------------------------------------------------- 「と、言うわけでございます」 「わかりました、なのははもう仕事は終わったの?」 「ぐすっ…うん…終わったよ…えぐっ」 まだ泣いてるのか、何と言うか…凄いな。 「芹菜、他の仕事は翌日回しでいいから、志乃美とちょっとここを片付けてくれ」 「わかりました」 「ちょっとなのはを落ち着かせてくる」 そう言うと俺はなのはの肩に手をやり、部屋まで送っていった。 よしっ、片づけしなくていいぜ(・∀・) なのはの部屋 「へぇ、結構片付いているもんだな」 初めて入ったなのはの部屋は、俺の想像とは別に、こじんまりとしていた。 「ごじゅじんざま〜ごめんなざい〜 れぇーらぁー」 まだ言ってるのか! 「そ、そうだな…ん?」 ふと棚に向けて目をやると、そこにはアルテマフォースの1/144キットが寸分の狂い無く完璧に再現されていた! 塗装、艶消しはもちろんの事、被弾したダメージテクスチャやアルテマヘッドなどの細かい部分まで行き届いているッ!! 「な、なのは!これは一体!?」 「ぐすっ…それですか?1/144デビルフォースからスクラッチした、アルテマフォースですよぉ、えぐっ」 「スクラッチって、ここまで細部にわたって表現するには、並大抵のスキルじゃできないぞ?」 そりゃそうだ、これを雑誌、趣味日本に応募した日には明らかに、オレシグー選手権に優勝できるぞ。 「…作成に半年かかってますから当然ですよぉ、他にも試作フォース3号機のディンドロビィウムとか、デステニーフォースとかありますよ」 「すげぇ!このデステニー、発動中の腕の光まで再現してる!」 「でもSpeedも結局はボーイズ目当ての女子向け作品ですよ!フォースフェザーの時と一緒で、何一つ熱く燃え上がるものがありませんから!」 「でも、デステニーの手が光った時、ちょっと燃えなかった?」 「何言ってるの、あんなのパクリじゃない!ザフとかトムとかまんま過ぎるし!キャラもフェザーっぽいし!それとも火乃守くん、腐女子!?」 「いやいやいや、確かにオマージュにしてはキツイよな」 「当然でしょ、ミリアリティ装備の時はちょっと3号機っぽくていいかなと思ったけど、まだまだね。フォースを語るならGか星屑!中身は初代よ!」 「007小隊も良かったよな」 「そーよね、火乃守くん、わかってるじゃない!子供向け過ぎる部分が多いかなと思ったけど、あの『僕はアイラと添い遂げる〜』は熱くなったわ〜」 「なぁ、なのは?」 「なぁに?」 「なのはって…フォーヲタ?」 「………………」 「なのは?」 「ご、ご主人様!?何でここにいるんですかぁぁあああああああ!?」 「うわぁ、急にでかい声出すな!」 「あっ、あっ、あっ…で…」 「なのはさん?」 壊れたか? 「出てってぇえええええー!」 「うわっ!」 ドン、バタン! 「あたたたた…おま、ご主人様をいきなり押し出す奴があるか!それに火乃守くんって、ここは屋敷だ!」 俺はドア越しに悪態を付け、なのはの部屋を後にした。 居間と書いてリビング 「うーっす」 そう言ってリビングに入ってみると、中では志乃美が一人で片付けに追われていた。 「あっ、ご主人様?」 「志乃美一人か?」 おかしいな、芹菜にも頼んだんだけど 「はい、芹菜さんは染み取り剤を取りに行きました。でも最悪、このカーペットはダメかもしれませんね」 確かにかなりのワインを叩き割ったせいか、カーペットは血の滴るような赤色だ。 「匂いが残らなかったらそのままで構わん。もったいないしな」 「えっ?…はい?」 「何だよ、その驚き様は」 驚くような事を言ったか? 極自然な対応だと思ったのだが。 「いえ、失礼しました。ご主人様は勉強する必要もないほど庶民的だなと。私がお仕えした方々は、何かあるとすぐに代えていましたから」 「うーん、もったいないなぁ。ワインこぼしたくらいでイチイチカーペット代えてられんし。ってか志乃美、今のはちょっと失礼だぞ?」 そう言うと俺はぷうっと頬を膨らませる。もちろん俺は男だ。 「しっ、失礼しました!」 おどおどと頭を下げる。 この辺に虐められっ子属性が滲み出てくるのが志乃美らしい。 俺は属性通り、少し志乃美を虐めてやる事にした。 「ダメだ、主人に対して無礼な振る舞いは許しがたい大罪である」 「あっ、その…申し訳ございません」 「これはもう解雇しかないかなぁ〜」 「そ、そんな!どうかそれだけは!何でもしますから!お願いします…」 来た!キタコレ! エロゲの王道パターン!へまったメイドに主人が罰を与えるのは当然の必然! 「よ、よし…ここは一つ…し、ししし、志乃美のスカートを…(*´Д`)ハァハァハァ」 バタンッ「志乃美ー染み取り剤、あったわよー!って、ご主人様?」 「これまた王道だなッ!芹菜!!」 「えっ?ええ?」 「もう部屋に帰る!ぷんぷん」 「…私、何かしたのかしら?」 「…いえ、どうでしょう?」 深夜 「はぁ〜今日のなのはは可愛かったな〜80点だな。志乃美は惜しかった、60点。芹菜は0点!(`・ω・´*)」 そうして火乃守の微妙な夜はふけていった… 僕とメイド 第5話【ピンクのしおりとゴッドフォース】 |
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