キーン コーン

俺の通っている学校のチャイムはあの音がひたすら交互に流れる。
何ともシンプルな音色だ。
屋敷を出たのが15分、校門が閉鎖されるのが30分。
ようするに屋敷から学校は案外近い。

「おはーよ」

「おぅ、おはようシオン」

この妙なイントネーションで挨拶をする奴は、株式会社紫苑のご令嬢“シオン紫苑”
英国と日本のハーフだ。
腰まで伸びたブロンドをポニーにしているのでお気に入りだが、何故今日はツインテールなんだよ、ムカつく。
ちなみに地毛は黒髪だが、ハーフを理由にブロンドで押し切っている。生え際が黒いのが痛々しい。
正式名称は“紫苑 里美”だが、俺が『外国人のくせに純和名かよ、シオンって苗字じゃなくて名前だろ』と言ったためにシオン紫苑になった。

「どうしたの?元気ないアルね?」

最近、我が校の女性群には、このようなエセ中国語が流行っているが、奴が原因とは思いたくない。

「悩み多き年頃の少年だからな」

「彩杜君は堂々と嘘つくところがあるからダメよ」

ごく当たり前のように突っ込みを入れてくる。
クラスで浮いている俺にとって、かなり相性の良い友人と言える存在だ。

「そう言えば最近、佐川さんと一緒に歩いてるところが多いけど…何かイヤーンな進展があったアルか?」

「ないアルよ」

そう言って俺はシオンを適当にあしらう。
あると言えばあるが、イヤーンな展開はない。
先日のなのはを見る限り、かなり欲しい展開ではある!

「あるのかないのかハッキリしろ」

「だからないアルよ」

また朝からうっとうしいのがやってきた。
コイツは“風条寺 疾風”
筋肉隆々で次期キン肉星大王と呼ばれている。いや呼んでいる。

「ほぅ?女性との話題に事欠かない彩杜君らしからぬ発言でございますな」

「誰があんなじゃじゃ馬…」

「じゃじゃ馬で申し訳ございませんね」

噂をすれば何とやら。
伝説のフォーヲタメイド。

「おっ、なの…グハッ!!」

「あらあら、ごめんあそばせ“火乃守くん”。ついつい右手が真っ赤に燃えてしまいましたわ」

ナイスボディブロー
そうだ、屋敷を出たら佐川だったな…

「い、いや…俺の方こそボディががら空きだったな、すまん」

「ねぇねぇ、やっぱり仲いいよね?」
「ぶっちゃけ仲が良くなかったら、あのボディーブローは出ないだろ」

「じゃあ遅刻するといけないので、お先に失礼しますね。アディオース〜」

そう言ってなのははパタパタと駆け足で下駄箱へ向かっていった。

「やっぱり佐川さんって明るいよねー」

「ああ、彼女にするにはちょっと大変かもしれないけどな。なぁ?彩杜」

俺を見るな。




「オイッス、おはよーさん。みんな一人の死亡者もなく出席してるかー?」

朝から何て言い回しの教師だ。

「よーし、めんどくさいからこのまま授業始めるぞ!紫苑、30ページの和訳だー」

「はい、私は日曜日に…」




さて、寝るか(・∀-)




キーン コーン キーン コーン…

…おはよう。
どうやらもうお昼ランチの時間のようだ。
ちなみに僕、頭は悪くないからね。

「彩杜クーン、メシタイムですよー」

「彩杜〜、飯どうする?」

俺がどの様な手段を用いて昼食を摂取しようとも、それは君たちには関係ないではないか。
と思ったが、ここは友情パワーに目覚めた俺だ。
優しく諭す。

「王子は牛丼食って来い」

「また肉マン扱いかよ!」

通例の儀式が終わったのでin the 学食へ。
…行こうとしたが、見知ったキャラがこちらにやってきた。

「もーご主人様、お弁当忘れて言ったでしょ?」

「は?」

「ご…主人さま?」

「………コノヤロウ(´Д`;)」

「……あっ」

俺はバンッ!と机を叩き、凍りついた空間を元に戻す。
そして俺は、この四人にしか聞こえないよう、小声で喋った。

「なのは、幸い聞こえていたのは、この二人だけだな」

「不幸中の幸いですね」

「…二人とも来いッ!」

そう言うと俺は二人の腕を引っ張り、学食へと向かった。



「な、なんだって〜!        この豪華弁当!」

「一人暮らしとは思えないですねぇー」

二人とも驚きを隠せないようだ…弁当に!!

「いやいや、弁当の前に突っ込む点があると思うが…」

呆れて物も言えねえ。

「そうだな、彩杜!金貸してくれ。むしろくれ!」

帰ったら志乃美のランスを借りよう。

「火乃守君もやっぱりジェントリでしたか、ご一緒ですねぇ」

「シオンは驚かないんだな」

ふーんと言った感じで彼女はグレープジュースを飲む。
蕎麦と一緒にジュースを飲むな、蕎麦をフォークで食うな。
これは毎回言ってるので、もういいや。

「火乃守は有名ですし、あまりない苗字ですからねぇ。むしろ佐川さんがメイドやってる事が驚きですよ」

「シオン知ってたのか!?」

「私もジョーリューカイキューの端くれですから。そもそも疾風は観察力がなさすぎですねぇ。彩杜君はジェントリとは隠していないようでしたよ」

あら、確かに隠すつもりはなかったものの、バレバレなのはちょっとショック。

「俺のような一般人には、お貴族様の現状なんて興味ないしな」



「本来は本家で暮らしていたのだが…」

カクカクシカジカ

「と言う訳で、なのはと一緒に暮らしてるんだよ」


「へぇ、3人もメイドを雇ってるのか…すげぇな」

「ふーん、3人しかメイドを雇ってないのですかぁ、大丈夫ですか?」


一般人と上流階級との大きな隔たりを見た気がする。


「俺は一人暮らしが始めたかったのだけどなぁ」

そう言って俺は、空になった弁当箱を片付けだす。
むっ、なのはの視線が痛い。

「…でも火乃守君ってかわってるよね、普通は雑用してくれる人がいるって喜ぶのに」

「何て言うか、気を使うからな」

当然だ。
思春期真っ只中の少年の下に、同じような年頃のレディ(一部か二部除く)が現れたら否応なしでも気を使う。
風呂を出たら裸でいられないし、夜中に外に出るのも一苦労だ。

「えっ!火乃守君、アレで気を使ってたの!?」

はぁ?(´Д`;)

「ぶッ!」

「…彩杜クン、家ではどんな生活なんですかぁ?」

むっ、この激しい疑惑の目。
俺がどれほど几帳面かつ社交的な生活を送っているか、説明しようとした矢先…

「そりゃもう、散々足るものよ。着替えは覗くわ、夜中に人の部屋に入ってくるわ、お風呂に一緒に入ろうって声をかけるわ」

ちょ、こら待て!

「…彩杜クン、ちょっと引きますねぇ」

「羨ましいな、おい。そりゃ下々の女性には手を出さなくなるわ」

「風呂に入ろうとした時に偶々鉢合わせになった、深夜にPSPをコイツの部屋に置き忘れて取りに行った、風呂洗いを手伝おうとした、以上だ!」

「ふーん」

「へぇー」

痛い、視線が痛い(つД`)

「なのは!もう少し言い回しを…グフッ!!」

「ごめんなさーい、 火 乃 守 く ん 」

な、ナイス神の指。
スミマセン。

「さ、佐川さん、もう少し…誤解の生じない言い方を…お願いします」

「似たようなものでしょ」

三人は声を合わせて笑い出した。
ちくしょう…

(ボソッ)「この、フォーヲタ」




暫くお待ち下さい(・∀・)




「す、すげぇな…」

「うん…彩杜クン、生きてますかぁ?」

何?あのガトリングブロー…



夕方



「ただいまー…」

「ご主人様!?そのお顔はどうなされたのですか!?」

口は災いの元だな。


僕とメイド 特別編【僕となのは】