前回のあらすじ。 なのは、槍はロボを倒すためのものかと質問 父、その通りと肯定 エシャル、なに勝手に割り込んでいるのと怒号 なのは、意見を言って何が悪い。 エシャル、関係のないメイドは黙ってなさい。 なのは、そもそも私は正規のメイドじゃない、アンタに指図されるいわれはない。 エシャル、じゃあ何でここにいるの! なのは、バイトだ! エシャル、バイト風情が重要な場に出て来るな! なのは、それは主人が決める事だ、そして私の主人はおばさんじゃない 彩杜、二人ともちょっと黙れ。 特にエシャルは優先的に黙れ 僕とメイド 第9話 金庫と館 「なるほど、そのメタルナイトを倒す武器が完成して、それはここの地下に保管されていたと」 「うむ。 もともとお前が1人暮らしをする事自体が偽装だからな」 「嘘!?」 「陽動」 「フェイントオペレーション!?」 とんでもない事実が出てきた。 ようするに俺の1人暮らしが、このメタルイーターの保管場所として作られた場所だったのだ。 火乃守の子供が学習するための屋敷に、最も危険な武器を置くはずがない。 まさに逆転の発想だ。 「第一、あんな仕来りが役に立つわけなかろう。 俺の時も何の役にも立たなかったわ」 そう言われるとそうかもしれないが、1人暮らしまで引っ張ってきた俺の努力は何だったのかと。 そして気になる事が1つ。 「その割には見つけ易くないか?」 そうだ、あの志乃美にでさえ見つける事ができる程度の隠し方だ。 例え強固な鍵がかかっていても、本気になれば取り出せないはずもない。 「一般人が他人の地下室など勝手に入らないだろう。 それに地下は地味にセキュリティが高い。 家人でなければたどり付けまい」 「あの古い鍵がセキュリティ…天井に紐で留めるのが最新式セキュリティかよ」 俺は何だかなーな顔をしながら、山吹色色の鍵を弄っていた。 見れば見るほどどこにでもありそうな鍵だ。 「何を言っている、保管庫の鍵は電子キーだぞ?」 「どこをどう見ればこれが電子キーなんだよ、そらっ」 山吹色の鍵が放物線を描いて父の所へ飛んで行く。 淡い輝きを放つそれを受け取ると、彼はじっと見つめていた。 「驚いたな、確かに電子キーだ。 ここに銀のラインが見えるだろ、これが認証部分だ… これをどこで?」 「倉庫の……天井です」 志乃美はおどおどとしながら彼の質問に答えた。 決して彼女が悪いわけではないのだが、それが彼女の性格なのだろう。 「山上の仕業かもしれんな、エシャル、確認を頼む。 彩杜!」 俺が返事をする前に、父はカードを投げてきた。 そのカードには何の記載もない、ただの鉄板のようだった。 ただ大きく“鍵”とだけ打ち込まれていた。 「それでシールドの鍵が開く。 論より何とやらだ、槍を持って来てくれ」 「槍……ねぇ…」 俺はしぶしぶ地下室へ向かった。 長い前振りではあるが、これで8話の一行目に繋がるわけだ。 なるほど、志乃美の拾った鍵を差し込むと扉が開く。 そしてカードキーを差し込むとケースが開いて扉が閉まる。 「どないせいっちゅーねん!!」 寂しい1人ツッコミが空を舞う。 流石は近未来的な作りの部屋だ、携帯の電波なんてとても届きはしない。 そもそも地下がレンガとコンクリート作りの時点で電波はダメっぽい。 「さてさて、どうしたものか」 1.待っていれば誰かが心配して迎えに来る。 2.扉をこじ開ける。 3.槍を戻せば扉が開く。 1と言いたいが、彼女たちが気づいたところでこの扉を開くには、予備の鍵が必要になる。 すなわち今日中には難しいわけだ。 2に関しては何せメタルイータだ。 ちょっと叩けば扉くらい破壊出来るかもしれない。 でもこの槍大丈夫か? 槍には変な噴出孔がある。 親父の趣味だとここからビームが出るはず。 そのビームをこんな密室で撃って、俺の身体に影響がないわけがない。 ビームが現実的に採用されていなかったら何か? 実弾しかない。 少なくともリベットかニードルだ。 こんなもの撃ったら間違いなく跳弾で死ぬ。 「3だな」 俺は大人しく槍をケースに戻した。 ガシャンと音と共にケースがガラスで閉じられる。 「で?」 扉が開く気配はまるでない。 やられた。 どうしよう、ちょっと弱気になってきた。 「お腹空いたなあ」 かれこれ1時間は経過している……さすがに彼女たちも気づいているだろう。 だけど現状で扉が開く事はない。 ……ちょっと待て、扉を叩く音すらない。 誰も気づいていないのか? 「おーい……」 空間に寂しくこだまする、我声。 もう2時間だ。 そろそろトイレネタに移行しそうな雰囲気ですらある。 「気づいていないわけないだろ」 そうだ、この状況で誰も俺の危機に気づいていないはずがない。 すなわち、“誰もここまでたどり着く事ができない”状態なのだ。 ドアを叩く事もできない。 考えられるのは、ドアに何かしらの状態変化が行われている。 電気? 熱? どちらにしても声は出せるはず。 つまり声すら届かない……この扉の向こうにも何か壁が出来たのか? 推理しても始まらない。 とにかく誰も扉の前にすら立てない、と言う仮説の元で自力脱出を試みるしかない。 調べる「ドア」 電気や熱は考えにくい、声が聞こえないからだ。 もう一つの壁があると考えるのが自然だ。 俺は扉をくまなく調べてみた。 「なるほど」 こちらからは一切のアプローチポイントがない。 「空ける方法は外からに限るわけか」 俺は槍の入ったケースの前に向かった。 カードを差し込むとケースが開き、再度槍を取り出す事は出来る。 これは向こうのドアに鍵を差し込めばもう一度開くと立証している事になる。 はず。 「この槍を使ってみるか」 話の都合で独り言が増えているわけでは決してない、俺は寂しくなると独り言が増えるのだ。 俺は槍を扉に投げつけた! 金属の乾いた音が鳴り響き、槍が地面に倒れる。 「想定の範囲内だな」 俺は悔しさをこらえて槍を見つめる。 明らかにスイッチであろう突起物もある。 これを押せば槍の射出口から何かが出るだろう。 だがそれはできない。 何がでるかわからないのに押すわけにはいかない。 ガシャン。 と大きな音が走った。 まさに突然、扉が開いたのだ。 「大丈夫ですか? ご主人様」 志乃美……(´;ω;`)ぶわっ 後から聞いた話では、ドアは何度か叩いたものの反応がなく、実家にスペアキーを取りに行っていたそうだ。 物凄い防音性なのだろう。 父の話では、この槍を持ち出すには中から取り出す、取り出した後に扉を開ける、と二段階の作業が必要らしい。 二つの鍵を持たない限り、中から槍を持ち出せない。 それどころか脱出もままならない。 「よく出来た仕掛けだよ……」 とにかく疲れた俺は、すぐさまベッドに入り込み、そのまま熟睡するのだった。 金庫と館 おしまい |
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