僕とメイド 第10話  意外



「孤独な夜更けは〜ふふふふふふ、ふーふふふーふふふ♪」

訪れる春を風に感じながら、俺と志乃美は洗濯物を干していた。
当初、主人とメイドが一緒に作業をするのは……と芹菜はしぶっていたが、俺の熱意が届いたのか、無事承諾。
実は1人暮らし(強制)の経験があり、家事炊事は得意だったりする。

「へぇ、志乃美が鼻歌って珍しいな」

「えっ!?そ、そうですか? すみませんはしたないところを…」

本当に何気ない鼻歌だった。
誰の曲か、どんな曲か、何に使われていたのか、そんな事を気にする人間はいなかった。



1人を除いて。



〜夕食後〜

極自然の鼻歌。
志乃美は何気なく歌っていたのかもしれないが私は聞き逃さなかった。
まさか志乃美がこちら側の人間だったなんて、まさに意外。
これを基に志乃美をこちら側に引き吊り込めば……いや、志乃美はこちら側なのだ。
つまり本性を引き出せば同士が増える、屋敷での私の立場も少しは中和される。


チャンスは最大限に生かす!


私は焦る気持ちを抑えながら、師匠の言葉を胸に志乃美の隣に座った。
交渉開始……ねごしえいたーの底力を見せてやるわ。

(ちょっと、志乃美!)

(何?)

何食わぬ顔で彼とテレビを見おって。
しかも内容はしがない中年刑事のサスペンス物だなんて……この時間なら私たちの見るべきものはCSに決まっているのに!

(昼間の鼻歌聴いたわよ…)

(ええ、何でそんなの聴いてるのよ!!)

驚きを隠しきれない様子ね。
それもそのはず、ヲタを隠し通すのはそれ相応の自信と覚悟が必要。それがバレたのだから驚かないはずもないわ。

(まさか志乃美があんな曲を知っているなんて)

(そ、そうかな?結構有名な曲だと思うけど…)

いやいやいや、最近になってゲーム化しつつあるけど、当時はあまりに模造過ぎて失笑されたと言うのに。
つまり志乃美は芹菜さんと同じでゲーム派?

(確かに人によっては有名になり易いジャンルではあるわね)

(うん、歌謡曲って言うのかな、当時の山瀬の歌が好きなの)

(そうそう、「機甲戦記……えええええっ!?」

「どうした?大声をだして」

しまった、私とした事が何たるイージーミス!
てっきり機甲戦記の主題歌だとばかり思っていたが、まさか歌い手の山瀬ファンとはしてやられたわ。

「いえ、昼間に歌っていた山瀬の曲をなのはも聴いていたみたいで……お恥ずかしい限りですぅ」

「そうなの、でもそんなに驚く事かしら?」

やはり突っかかるのはこのおばさんか。
そりゃ機甲戦記の主題歌を歌ってると思ったら山瀬のファンだったって、普通なら驚くわよ。
まさに気をつけて誰かがWatching youね。(ノД`)





リビングにて。





「なのはー」

「ご主人様、どうかなされました?

「今の会話ってもしかして、蒼き鷹?」

「!!!!」

「くっ、くくく、ははははは、フォースの次は機甲戦記か!!……よしッ!なのはは明日から“火乃守の蒼き鷹”な!」

「せ、せめて彗星くらいの知名度でお願いします…」


第11話改め、火乃守の蒼き鷹   完