初夏、みなと港にて。


「おっきいですねぇ」

「そりゃまぁ、原子力空母と水陸両用機動兵器がセットで並んでいれば、圧巻だよな」



第11話 兵器と彼女と炒飯と



今日はあまり外に出る事が少ない志乃美さんを連れて、みなと港へやってきた。
お目当ては現在公開中の新型国産原子力空母と、戦術自衛隊の最新鋭水陸両用機動兵器D-02通称【ヘブンズドアー】の見学だ。

「何か大きい割には丸っこくて愛嬌のあるフォルムですねぇ」

「パンフレットによると、銃砲弾を弾き易く、D-02の特徴である真空防壁の効率を最大限に引き出せるんだと」

パンフレットによるとーなどと言ってはいるが、知識として所有している俺。
そうさ、自称軍ヲタだよ!(゚∀゚)

「っておいっ、走ると転ぶぞー」

俺の制止も聞かずに、志乃美はヘブンズドアーの方へ走っていく。
あ、こけた。

「うええーん、ご主人様ー!」

「はいはい、泣かない泣かない。 あと外では火乃守な」

特に怪我はしていなさそうなので、軽く膝辺りの砂をはたいてやる。
俺は志乃美をあやしながら、船体へと向かっていった。


「ちょっと!何で私達がこんな所で警備なんてしなきゃいけないのよ!」

「そりゃ補給部隊は特に任務のないこの季節だ、お披露目会程度の警備なら、暇な俺達に出番がくるさ」

「暇じゃないわよ!夏に向けて水着を買いに行く予定だったのに!それになんでチビッ子がいないの!!」

「一般人の目の前で、自衛隊がチビッ子を使うわけにはいかないだろ。つか任務中だ、少し黙れ」

何だか警備にあたっている軍人が騒がしい、よく聞くと理由も中々に痛い。
軍人にもなのはのような奴がいるんだな…


一通りの展示品を見終わった後、俺達は近くのレストランに入った。

「うひゃあ!この炒飯、凄く美味しいですよー」

俺の記憶が確かならば……いや俺の視力が正常ならば、あれは明らかにピラフだと思うのだが。

「志乃美、今日は楽しかったか?」

「はいッ!とても面白かったです!」

良かった。
実は内容が内容だけに、女の子には難しかったかと思ったのだが、何とか充実してもらえたようだ。

「でもどうして急にこんなお誘いを?」

「別に。平日はなのはや芹菜と違って自宅にいるし、休日も屋敷で仕事しているし、たまには外に出たいかなと思ってな」

「ご主人様……」

「内容は俺の趣味全開でちょっとアレだったけど、ははは」

気が付けばなんて臭い台詞を吐いているのだろうか。
俺はさっさとどう考えても炒飯には見えないピラフを食べた。

「志乃…!?」

典型的な漫画表現と言うか、俺は手に持っていたスプーンを落としてしまった。
目の前で志乃美が泣いている、俺は…

A:志乃美、そんなに喜んでくれるなんて嬉しいよ。
B:ちょ、おまwww別れ話みたいに見えるだろwww
C:泣き顔萌え〜(*´∀`*)

A←


「志乃美、そんなに……」

「うっ、ううっ、さ、山椒をかけすぎましたぁ〜」



(*´∀`)……


( ´∀`)……


(#´∀`)つ凸゜゚・* Σ(゚Д゚)


俺が胡椒で攻撃すると、志乃美はや、やめてくださいーとのたうち回りながら、音の小さい女の子くしゃみを連発する。
何となくざまあみろ。

そうこうしているうちに、時計はもう14時を回っていた。

「……さて、これからどうしようか?」

みなこ港の周辺は微妙に施設が少ない。
かと言って、今から都市部に戻っても時間的に微妙な感じもする。
何せお泊りと言うわけにはいかないし、そんなに遠出をしているわけでもない。

「折角ここまで来たのだから、漁港にあるお魚屋さんに行きませんか?」

「魚屋?いいけど何でまた」

確かに漁港周辺には、新鮮さを売りにした魚屋が多数ある。
でも魚を見るなら時間的には厳しいが、みなと港水族館もあるわけで。

「何を言ってるんですか〜今日の夕食はぱわぁーあっぷした私の手料理だって、前々から言ってるじゃないですか」

ぱわぁーあっぷした……志乃美の……手料理!?

「真っ直ぐ帰るぞ、俺はまだ死にた」

「今日はアジの塩焼きですよぉー」

俺はいつもの志乃美とは思えない力で引きづられて行った。
パワーアップしているのは腕力じゃないのか?




夕食〜

「何で止めなかったんですかぁーご主人さまー」

当然のようにスペシャル不機嫌そうな顔のなのはさん。

「塩焼き……ですよね?」

はい。芹菜の疑問はもっともです。
俺は意を決して志乃美に問いただした。

「なぁ志乃美さん、何故に塩焼きで煮物が出てくるの?」

「いえ、塩焼きは私とは思えないくらい上手に焼けたのですが、食感的に煮魚も悪くないかなと思いまして、てへっ」

確かに煮魚も悪くない、だが何故“焼いた後の魚を煮込む”必要があるのだろうか?

「志乃美さん、俺としては焼く前に……

「だぁぁぁぁぁぁ!!この産業廃棄物生産工場がぁぁぁぁ!!」

俺が言い終わる前に、なのはが叫びだした。

「なっ、失礼ね!食べもせずに文句を言わないでよ!」

「普通に考えて、焼いてから煮込むなんておかしいでしょうがぁぁあああ!!」

「火が通って美味しいかもしれないじゃない!」

「“私とは思えない”とか“かもしれない”とか自分で言うなぁぁぁぁ!! つかそもそも焼き魚は火を通すものだぁぁぁあ!」

「創作料理何だから、ちょっとくらいの手違いはしょうがないでしょ!」

捜索料理の間違いじゃないか?

「ご主人様!だから志乃美に食事を作らせるのはダメだって言ったんですよ!そもそも炒飯とピラフの違いがわからないって重症じゃないですか!」

「ちょ、馬鹿!」

「え、ピラフって…なに?」

「貴女が昼に食べたのは、炒飯じゃなくてピラフよ!もう作るのも食べるのも致命的なの!わかる!?」

「ええー!あれ、炒飯だったのですか!?ご主人様!!」

傷つくかと思ってせっかく隠していたのに……はふぅん

定番にもなった、志乃美となのはの取っ組み合いが始まってしまった。
志乃美が当番の夕食は、決まってこの光景が繰り広げられる。
今日の夕食はインスタントラーメンだな。

「あら、意外と美味しいですわよ?」

「せ、芹菜さん?Σ(゚Д゚;)」


第11話 兵器と彼女と炒飯と 終







「あーおなかすいたぁー」

「そうだな、片付けが終わったら夕食だから、さっさとやれ」

「片づけならちびっ子にもできるじゃなーい、なんで私たちだけなのよぉー」

「片付けだけに呼ぶわけにもいかんだろ、むしろ時間がかかっているのはお前が手伝わないからだ」

「そうだ!!そう言えば水着なんだけどさぁ、一緒に付いてきてくれない? やっぱり男の人の評価も必要だと思うのよねぇ」

「頼むから仕事をしてくれ……」