第12話   メイドの休日


「……と言う訳で、火乃守家のメイド長は芹菜に決定します」

延ばしに延ばしまくった末、ついに我が屋敷のメイド長が決定した。
そもそも芹菜以外は、食事がまともに作れない新人とバイトと言うあまりに寂しいメンバーのため、必然と言えば必然。

「ふわぁーあ……まったく、朝から物々しい雰囲気と思ったら、なんて地味なイベントを……」

私は、女性と言うのは人前では欠伸を隠すものだと思っていた。
彼女は目に涙を浮かべながら、テレビのリモコンを探し出す。
その姿はメイドとは確実に言えない風貌であった。

「貴重な休日にすまなかったな、では各々しっかり休暇を堪能してくだされ」



「さて、休暇と言ったものの俺は毎日が暇なわけで、彼女たちの休暇を覗き…じゃなくて主とて確認を」

俺はうわ言のようにブツブツと言いながら、足取り早く志乃美の部屋の前に立った。

「しかし休暇と言う事はプライベートなわけで、彼女たちの個人的日常に入り込む権利が俺にあるのかどうか…」

心の中では自問自答をしつつ、俺は扉を開けた。
もちろん抜き打ちの確認と言う名目なのでノックはなし。

「まぁ、当然だわな」

ドアには鍵がかかっている。
志乃美の事だからプルオープンかと思えば、案外そうでもないらしい。



世の中はギャルゲーのようにうまくは行かない。
具体的にはここで“あれーご主人様どうしたのですか、折角でしたら部屋でお話でもしますか?”何てイベントはない。

「しょうがねぇ、芹菜のところに行くか」

足取り早く芹菜の部屋へ。
そう言えば俺はあまり芹菜のプライベートを知らない、こりゃ好都合。

「芹菜、入るぞ!」

と言ってる頃にはもうドアは全開。
そして俺の眼下に飛び込んできた芹菜は言うと…

「ふへぇ!?」

Tシャツとハーフパンツで煎餅を咥えながら、グラディウス外伝ハーディスト2周目トリプルコア戦を淡々とこなしつつふへぇ!?とか言ってるお姉さん。
あ、死んだ。

「ぎにゃあああ!!ノーミスだったのにぃー!」

ハーディスト2周目をノーミス、どんな技術だよ。

「あー…おー…そりゃすまんかった」

「あうあうあう…うー…何か御用ですか、ご主人様?」

声に若干の怒りがこめられている、気がする。

「いや、みんな休日は何をやってるのかなと思って」

「私は溜まっていたゲームの消化ですよ」

そう言って部屋の片隅を見ると、山積みになっているゲームディスクが。

「あ、あれ全部未消化なのか?」

「ええ、他にもMGS3、グラ5、連ザ、連ザ2、ガールズサイド、アイマス、無双シリーズ、北斗、応援団2とか…」

古いのから最新まで幅広いラインナップ。
連ザ2やるなら無印はいいだろと突っ込みを入れそうになってしまった。

「ふーん、じゃあ北斗で対戦するか?」

「え、ご主人様、格ゲー出来るのですか!?」

失礼な、こう見えて俺はその道じゃ有名な水鳥拳の使い手だ。

「やったぁ!ここのメンバーは誰もゲームやらないから相手がいなくて困ってたんですよ」

「なるほどな。よし、行くぞ?」


ありえない。

俺がスト2上がりだからついつい飛び込み攻撃がメインになってしまうのは許容しよう。
攻撃ガード後に反撃クラッシュでコンボ開始、数発のパンチを受けたかと思ったら、いきなりあぐらを組みだして“有情破顔拳”テーレッテー!!とか。
何かおかしい。

「って言うか、何で次兄使ってんだよ、反則だろうが!」

「ゲームにプログラムされているモノは全て利用する。エタコン、波動ハメ、投げハメ、強キャラ、私は奇妙な冒険で迷わずペットショップを選択する女ですよ?」

こ、この女ありえねぇ…
あれだ、過去には初心者相手に待ちサマー、狼伝説にキャラは残影のみ、CS2ではムエタイ・スペインのダブルコンビ、連ザではノワール1択…

「ふっ、はははははは」

「どうしました、ご主人様」

なるほど、大会で名前を聞かないわけだ。
コイツは大会のルールなんて興味がない、コインを投入した瞬間から、対面のプレイヤーを殺すか殺されるかしか思考がない…まさにキリングマシーン。

「芹菜、連ザ2で勝負だ!」

「良いですよ」

ふ、俺のブラストインパルソをみせてやるぜ!




「で、肩バルカン目当てでブラスト選んだら、芹菜さんにデストロイ選ばれた挙句に、開始速攻で変形からの格闘で撲殺されたと」

「俺にどうしろと言うんだ…」

「ふぅー久しぶりに楽しめたわぁー」

あれは、ただの、虐殺だ…



後日、なのはが使ったレイダーにフルボッコされた芹菜が確認された。

「うそ…なに、なぜ私がレイダーに負けるの…?」

(なのは…さすがフォーオタ、恐ろしい娘…(((;゚Д゚))))


メイドの休日 終わり