さて、ここまで、おタマとそれらの並びについて見てきました。でも、この先へ進もうとするなら、おタマ三兄弟を避けて進むわけには行きません。――そう、コードです。
ほら来た、と思ってる人もいるかも知れませんね。そう――コード論は、曲を創ろうとしたときに、一番面倒な部分の一つでもあります。――でも、さすがに、これを避けて通るわけにはいきません。
ただ、コードの論理を突き詰め突き詰めしていくと、それこそ音楽大学でもやりつくせないくらいありますから…例によって、ここでは、必要ないくつかにとどめておくことにします。それ以上のことは、順次学んでいくもよし、各自調べるもよし――とにかく、それを必要としたときに手を伸ばせば、あなたの表現を広げてくれるでしょう。
さて、そのおタマ三兄弟に移る前に、音程のことを知っておきましょう。
音程というのは、『ある音と別のある音がどれくらい離れているか』です。これがわからないと、コードの説明の時に困るのです。つまり、『ある音と別の音がどれくらい離れているからどう響く』を説明するには、その離れ具合を説明できる単語を決めておかないと、『この音とこの音は、全音三個と半音一個分離れているから――』とかいう、ものすごく長い(そして結果として、多くの方はイヤになる)表現になってしまうからなのです。
基本的には、こんなふうになります。
楽譜上で、ある音符と、ある音符が離れている離れ方をこんな風に呼びます。
(鍵盤上の、ある音とある音の離れ方ではないことに注意)
まったく同じ音(ユニゾンとも云います)を1度と数えて、そこから一つずれるごとに度数が増えていきます。8度はもちろん、オクターブです。
さて、これだけでは不充分です。音には全音と半音があるため、同じ2度でも、それがド・レなら全音離れた2度だし、ミ・ファなら半音離れた2度ということになり、曖昧さが残ってしまうからです。当然、4度や5度も幾つかのそれらがあるわけで、正確でないので、正確に云うためにこんなふうにします。
まず、2・3・6・7度は、基本的に長と短に分かれます。最初から見てみると、
これが2度と3度の場合。これは、見たまんまですね。その間隔が、2度なら全音(半音二つ)、三度なら全音+全音(半音4つ)の場合は長、半音/全+半 の場合は短、と呼びます。
これが6度。同様に、半音が一つなら長、二つなら短、と呼びます。
7度。同じです。半音が一つなら長、二つなら短です。
4度と5度は少し違います。まず、『ドとファ』『ドとソ』に当たる間隔の時は『完全』と呼び、そうでないときは、4度なら『増』5度なら『減』と呼びます。
この、『完全』(Perfect)の関係は、大変よく響き合う音で、また完全4度と完全5度は裏の関係に当たります。つまり、『ドからみてすぐ上のファ』は完全4度ですが、『そのファから見て一つ上のド』は完全5度に当たります。
4度です。全音二つ+半音一つなら完全、全音三つなら増と呼びます。増4度に当たる音は不協和音で、響き合いません。この例なら、『ファ』と『シ』ですね。
この『ファとシ』は、なかなか使いづらいコンビです。後で云うBdimで現れる組み合わせですが、とても不安定で心をかき乱すような、そんな響きです。初めのうちは使わない方がいい組み合わせです。
5度です。全音三つ+半音一つなら完全、全音二つ+半音二つなら減と呼びます。減5度に当たる音も不協和音です。見て明らかな通り、増4度と減5度も、ちょうど裏の関係に当たります。(から、増4度が不協和音である以上、減5度も不協和音なわけです)
また、1度と8度は、基本的には同じ音なわけですから、いずれも完全音となり『完全1度』『完全8度』となります。
さて、ホントはこれだけではまだ足りません。#や♭がついてくると、色々変わってくるからです。例えば、以下を見てください。
これは、左右両方とも、鳴る音は同じなのです。でも、表記上音符の位置が違っているので、その呼び方も違ってきています。(だから『楽譜上で、ある音符とある音符が離れている離れ方』と云ったワケです)
右を見てみると、確かに音符と音符の離れ方は3度ですが、実際のその間隔は、全+半 でも、全+全 でもないですね。これは半+半で、短より更に短くなっています。この場合は、5度と同じように『減』と呼びます。
同様に、長よりも長い場合は増、と呼びます。この場合の右の図は、音符の位置は2度、しかしその間隔は、長である全音よりも長い『全+半』であるため、増2度と呼ぶわけです。また、1度にも増1度がありますし、8度には増も減もあります。
…さて、混乱してきましたね。とりあえず下にまとめておきますが、ここではあまり複雑なことはしないので、4度5度以外の増減は気にしなくていいです。
・度数の呼び方は、実際に弾かれる音ではなく、楽譜上の表記による
・よく使われるのは長短と完全
・1/4/5/8度は完全が基本、2/3/6/7度は長短が基本
・長より長いのは増、短より短いのは減
・完全より長いのは増、短いのは減
では、やっとコードです。曲というのは、あるスケールの上の音を主に行き来する、と云いましたが、その中でも、小節ごとに、ある時はドミソを主に使い、ある時はドファラを使う、というように、スケールのうちのいくつかを更に絞って使うことが多いです。この時、この『ある小節内で主に使われる音のかたまり』がコードであり、時々刻々変化していく『音のかたまりの変化』がコード進行であるわけです。
そうは云うものの、そう簡単にはわけがわかりません。そもそも、『時々刻々変化していく音のかたまりの変化』と云ったところで、なんのことやらわからないですよね。だいたい、音のかたまりってなんでしょう。
そもそも、二つ以上の音をいっぺんに鳴らしたときに、それらがお互い響き合うか(協和音)響き合わないか(不協和音)には一定の規則があります。例えば、長短3度の関係にある音、完全4/5度の関係にある音は同時に鳴らすとよく響き合いますが、長短2度や増4度(減5度)の音は、お互いに主張し合うばかりできれいには響きません。
そんな中で、時にはよく響き合う音同志を使い、時にはそこにスパイスとしてまったく響かない音をぽつっと混ぜたりするわけですが、まあ一番基本としては、スケールの上に、スケール上の音だけを3つ使って重ねたものが用いられるわけです。見てみましょう。
ハ長調のスケール上に、間を3度ずつ空けておタマを乗せました。この時一番下の音を根音(ルート)、真ん中を3度(3rd:サード)、一番上を5度(5th:フィフス)と云います。(3度と5度は度数の呼び方そのままですね)
これが基本になります。こうやって、長調のスケールの上で3度ずつ(つまり一つおきに)おタマを乗せると、VII度以外は、
1.ルートと5thが、完全5度の関係になる
2.ルートと3rd、3rdと5thが、それぞれ長短3度の関係になり、協和音となる
ために、大変きれいに響くのです。この時、この3音で構成されるコードをトライアドと呼びます。
各コードの下に書いてあるローマ数字は、スケールに対する各コードの名前です。その調がハ長調でもヘ長調でもイ短調でも、おタマを移動ドで並べたときに、ドレミ…(短調ならラシド…)の順に、I度、II度、III度…と呼ぶのです。こうするとそのコードがハ長調のCメジャーでもヘ長調のFメジャーでもI度と云ってしまえば済むので、楽なのです。
ここで、これらをピアノなどで弾いていくと、3つの響きがあることに気付きますね。明るく響くもの、暗く響くもの、そしてやや不安定な響きをするもの…分けてみましょう。
○明るく響くもの――I度、IV度、V度
●暗く響くもの――II度、III度、VI度
◇不安定に響くもの――VII度
VII度はちょっと置いておいて(ディミニッシュと云います――これは次の章で)、明るく響くコードをメジャー、暗く響くコードをマイナーと呼びます。そして、各コードはそのルートの音でほげメジャーとかほげマイナーとかの名前が決まります。例えば上の図では、I度はCメジャー(C)ですし、VII度はAマイナー(Am)と呼びます。これがコードネームで、ローマ数字の下に書いてあるそれらになります。
メジャーコードとマイナーコードの差は、『3度の音が長3度か短3度か』ということだけです。例えばCは『ドミソ』で、このドとミの間は長3度です。Dmは『レファラ』で、レとファの間は短3度ですね。だから、こんな風に、3度の音を動かすことによって、メジャーやマイナーを変えることが出来ます。
余談ですが、右側のD(Dメジャー)は、ユーロビートでよく出ます。もうちょっと正確に云うと、短調のIV度のメジャー、及び長調のII度のメジャーです。推測するに、勢いで走り続けるユーロビートでは、暗く響くDmよりも、ファの音が半音上がったDの方が勢いがつくからでしょう。ファの音がスケールから外れるので基本の7つのコードには属さないのですが、気持ち良く響くのでワタシもよく使います。(実際には更にメジャー・セブンスやナインスにして使うことが多いです)
この3度の音というのはそのコードの調子を決めるので、重要な音でもあります。それを逆手に取って、あえて3度の音をメロディやコードから抜いてしまうことによって、メジャーなのかマイナーなのかわからない不安定なコードを使うということもあります。(こらむ参照)
さて、前の図に戻って、I度、IV度、V度を見てみましょう。
この3つは特別なコードたちです。この3つさえあれば、とりあえず曲は書けるのです。特に、V度のコードには、もう一つおタマを足しましょう。これをセブンスコードと呼びます。(詳しくは次章で)…こうなります。この3つをまとめてスリーコードと呼びます。
これらには、特別な名前が付いています。
I度:トニック(Tonic)
IV度:サブドミナント(Sub Dominant)
V度:ドミナント(Dominant)
基本的に(こればっかですな)、どんな曲でも、I度のコードから始まってI度に戻ろうとします。(もちろんそうでない曲はたくさんあります…やっぱり、人と違うことをしてきた先人たちの結果なのでしょうね)このI度のコードは、とっても落ち着く音です。だけど、これだけだともの足りないので、他のコードに動いたりするのです。(結局人間は、安定しているときには不安定を、不安定なときには安定を求めるのですね…)
さて、じゃあどういう風に動くか、なのですが…まあ、動きやすいコードというのはあります。それはおいおい説明するとして、とりあえずここではI、IV、Vのどれからどれへ行ってもいいとしましょう。
そうすると、『I度に戻ろうとする』と云いましたが、『I度に戻る』ためには、IV→I と動くか、V→I と動くかの2通りになりますね。これらを終止と云います。こう動くと、ホッとするのです。いや、まぢで。聴いてみてください。
下の『V→I』の例では、V度のコード即ちG7のコードがヘンな形になっていますが、これは転回形と云って、上の『シレファ』の音を1オクターヴ下げてあるだけです。鳴っている音は『ソシレファ』には変わりありません。キーボードで弾く場合など、手の平の大きさ以上に拡がったコードは弾けないですから、こんな風に音同志を近付けるように配置し直すことはよくあります。それでも鳴っている音の種類は変わっていないですから、これはやっぱりG7なのです。同じ意味で、上の例も一番上のドを、オクターブ下げた転回形にしてあります。
本題に戻って、どうですか?上の例は、なんだか教会の雰囲気がありますね。賛美歌などではこのコード進行がよく現れるので、このIV→Iの終止をアーメン終止なんて云ったりします。
下の例はどうですか?ものすごくスッキリする終わり方ですね。最初のコードつまりG7を聴いたときになんだかムズムズして、それがI度に変わった瞬間ホッとする…そんな感じです。なんでかという理屈はこの後で書きますが、そんな理屈抜きにホッとする進行、これがこのV→Iの進行なのです。これを特に、ドミナント・モーションと云います。コードを色々変化させて、最後でV度からI度に戻す…これが、小節の終りや、区切り区切りで現れて、その時々をスッキリさせるわけです。そして曲の最後でも現れて、『ああ、よかったなぁ』と終わる、これが進行の基本になります。
この時ドミナントは常にメジャー・セブンスであることに注意してください。これが、メジャー・トライアドだったり、マイナー・セブンスだったりするとあまり気持ち良くないのです。セブンスである『ファ』の音が、ルートの『ソ』とぶつかって緊張感を出しつつ半音下がって『ミ』へ動く、そしてサードの音『シ』が半音上がって『ド』へ動く、だから気持ちいいのです。フィフスの『レ』も、トニックの『ドミ』の間に位置し、上下に動くことを助けています。
短調の場合でも理屈は同じです。見てみましょう。
こちらは、ハ長調とはちょっと変えて、最初からV度をセブンスにしておきました。もちろん場合によってはトライアドとして使われることもあるのですが…その前に、V度を見てみると、サードの音に#が付いてしまってますね。この音は『ラシドレミファソラ』からは外れる音です。何故でしょう?
ここで、ドミナントモーションが効いてくるのです。そしてこれが、前章で、『V度のコードからI度のコードに終止するとき、V度のコード中に、スケールにない音、つまり『ソ#』が入ってくるから、こんな風に動いてしまう』と云った答えになります。つまり、
ドミナントモーションは、V度のメジャー・セブンスから、I度のトニックに動く
必要があるのですが、単純にV度、即ちミの上におタマを重ねていったのでは、『ミソシレ』となり、これは、マイナーセブンスコードになってしまうから、なのです。これをドミナントモーションにするためには、ソを半音上げて、『ミソ#シレ』のメジャーセブンスコードにしなければならないのです。
…うだうだ理屈を云ってるより、聴いた方が早いですね。聴いてみましょう。
上はマイナーセブンス(Em7)からトニックであるAmに動いてますが、なんだかすっきりしません。対して下は、E7からAmに動いていますが、こっちはハッキリスッキリしてますね。
こんな風に、スリーコードは多数のコードたちの基本であり、またこの三つだけで曲を書くことは出来ます。童謡なんかは大抵スリーコードだけに書き換えることが出来ますね。また曲中の一部に、スリーコードのみが現れるということもよくあります。有名どころだと…そうですね、hideの『TELL ME』で、イントロがI→V→IV→IV → I→…という進行になっていますし、SAVAGE GARDENの『AFFIRMATION』では、転調を上手く使いながら、曲の2/3以上をスリーコードのみで構成しています。
ワタシの例だと…もう一度いつかどこかでを挙げてみましょうか。イントロをよく聴いてみてください。IV度の代わりに『ドファソ』(Csus4と云います)を使ったり、I度の代わりに『ドレファ』(Csus2と云います)を使ったりしていますが、これはそれぞれIV度の『ドファラ』、I度の『ドミソ』に置き換えることも可能で、基本的にI→IV→I→Vという動き方です。ピアノ部分を下に載せておきますね。では、基本はこんなところにしておいて、少し休んでから、応用に進んでいくことにしましょう。
コナミコード
まずはいきなりですが、下を聴いてみてください。
なお、わかりやすくするため、楽譜表記の例外的に#と♭は、そのコードのみに効くと思ってください。つまり、あえてナチュラルの記号を使っていません。
不思議な音ですね。調自体は、トニックがメジャーであることから、メジャーのようですが、マイナーの雰囲気も含んでいるような、しかし上へ上へどんどんと引っ張っていくような…。
このコードを何と呼ぶのか、ワタシは正式な名を知りません。しかし当時、ワタシのようにゲームミュージックが好きで、そういう曲を創ったりあるいはいろんなゲームの曲をアレンジしていた連中は、俗にこれを『コナミコード』と呼んでいました。理由は簡単、コナミがこのコードを頻繁に使っていたからです。ツインビーしかり、グラディウスしかり、A-JAXしかり、チェッカーフラッグしかり…。
コードは全てメジャーとなっていますが、それはあくまで基本です。例えば、これはよく見るとスケールそれ自体は短調のそれですから、短調のコードのうち、トニックだけがメジャーになったと考えればDmはDdimになるかもしれないし、FはFmになっても良さそうです。また、ちょっと難しくなりますが、ハ長調とハ短調を頻繁に転調していると考えれば、それぞれのコードは状況に応じてマイナーになることも出来そう。
このコードで重要なのは、ミに当たる音です。トニックではただのミである音が、それ以外のコードではミ♭として扱われています。この音はドから見て3rdですから、コード的に考えても、メジャーとマイナーを決める重要な音です。つまり、進行次第でこの音をミにしたりミ♭にしたりすることで、曲をメジャーっぽくしたりマイナーっぽくしたり変化を付けることが出来ます。
また逆に、敢えてこのミの音を抜くことで、長調なのか短調なのか曖昧にすることも出来ます。例えばグラディウスの空中戦の曲では、1〜4小節の間、メロディにこのミが入っていません。そのため、五小節目でこのミが現れてくるまでは、長調か短調かはっきりしないのです。聴いてみましょう。(下の例はわかりやすくするためドから始まるように移調し、かつベースとメロディを離しています)
赤いところがミの音ですが、ここには一切おタマがいませんね。
そんなわけで、短調の重くカッコいい響きと、長調の明るく引っ張っていく雰囲気を両方兼ね備えたコードがこのコナミコードなのです。ただ、やっぱり使い方は難しく、特にミの切り替えタイミング如何によっては、なんだかはっきりしないよく判らない曲になってしまいます。ケンタテ!では若干このコードを使っていますが、あまりうまくありません。とりあえず1小節目でミとして鳴っている音が、3小節目でミ♭として鳴っています。
他の例としては、古いところでスペランカーや、またゼルダの伝説のメインテーマがそうですね。ただこのゼル伝メインテーマ、最近出た64版『ムジュラの仮面』でもフィールドテーマとしてアレンジされているのですが、残念なことにムジュラの方では、『メロディの始まりに長3度が含まれる単なる短調の曲』としてアレンジされてしまい、昔の力強い感じがなくなってしまいました。(でもムジュラアレンジは、それはそれでカッコイイのですけどね)
有名どころだと、これはコナミコードというより前述の、『ハ長調とハ短調(実際にはその平行調である変ホ長調)を移調している』にあたるのですが、B'z松本さんのギター曲『Life』が似たような雰囲気を持っています。参考まで。